リクルート時代に上長に面談で言われたことば。「キャリアの築き方には登山型とカヌー型がある。俺はカヌー型なんだけど、君もそうなんだろうな。」

リクルートの相談スタイル

社内で相談すると、質問返しに遭うことが多い。「で、お前はどうしたいの?どうしようと思っているの?」最初の頃はとにかく戸惑った。意地悪されているんだとすら思っていた。いや、わからないから尋ねてるんじゃん、と。人生においてこんなに日常茶飯事に己の意思を問われる機会はなかった。

今思えば本当にありがたいコミュニケーションで、彼らは物事を思考する力を訓練してくれていたのだ。答えを言っちゃう方が手っ取り早いし目先の数字は上がるのに、彼らは人を育てる長期的な視野に立つ。彼らの先輩がそうしてきたように。

進む道を自分で決めれば覚悟が決まる。もう他責にはできなくなる。覚悟は推進力になる。今ならよくわかるが、若い私は次第に、仕事をしていく上では何事にも自らの強い意志が必要で、無いことは駄目なことだと思い込むようになっていった。

君のことばに救われた

入社3年目にキャリアデザイン研修があった。お台場にあるホテルの会議室で2日間に渡って行われ、部屋の窓から見える海の景色が印象的だった。帰社後、上長との面談がセットされていた。上長とはフロアでは頻繁に顔を合わせて挨拶するが、職位が上すぎて一緒のチームで仕事することはない間柄。前部署でのトップセールスマン伝説や、編集長としての輝かしい活躍のみが耳に届いていた感じ。どんな面談になるのか想像がつかなかった。

「研修どうだった?」から始まり、私が今担当しているプロジェクトや家族の事など、ざっくばらんに話をさせてくれた。上長は私の父が勤めていた会社を担当していた時期があったらしく「とってもいい会社だよね」と褒めてくれた。なんだか自分が褒められる以上に嬉しかったことを覚えている。

本題のキャリアの話に移り、私は「目指す目標というか、なりたい自分というか、そういう確固たるものが定まらないんです」と恥じる内情を吐露した。

「キャリアの築き方には登山型とカヌー型がある。山頂というゴールを見上げながら歩む登山型もいいけど、目の前の障害をなんとかクリアしながら今は見えないゴールに向かって流れ進むキャリアでもいいじゃないか。タイプの問題なので優劣じゃないと思う。ちなみに俺はカヌー型だよ。今なりたい自分がないのなら、今は与えられた仕事に全力で当たって力をつけていく時期と捉えればいい。」

こんなに仕事できる人もカヌー型なんだと救われた気がした。肩の力がすっと抜けた。安心して胸を張って目の前のことをやろうと思えるようになった。

それから15年が経ち

私は43歳になり、キャリアの築き方がカヌー型から登山型に変化してきた。山頂に生涯現役の心理屋というゴールがあり、1合目には資格試験合格、2合目には50歳までに実現するいくつかの目標がみえている。

人生をかけて取り組みたいテーマが見つかる人は幸運だ。その幸運は目の前の些細を怠らず、暗中模索を諦めない人に訪れると信じてやってきた。それが間違いではなかったことを、今の私が証明している。

※リクルートの先輩方の金言は他にも沢山あるのでよろしければ過去ログで。

https://note.com/embed/notes/n4f63e5fbace2

https://note.com/embed/notes/n95079e2913ff


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。