メンタルクリニックの初回面接(予診)の聞き取り項目に「性格特性」がある。ドクターが行う診断や治療方針の決定に役立つ情報だという。患者さんに「どんな性格ですか?」「周囲の人にどんな性格だと言われることが多いですか?」と直接聞くこともあるし、言動などから心理士が推察することもある。
心理学における性格(パーソナリティ)の捉え方として、「類型論」と「特性論」がある。大まかに言えば、類型論は型にはめる、特性論は要素を組み合わせる、というやり方である。
類型論の特徴は、性格を少数の典型に分類することで、直感的に個人の全体を把握しやすい一方、個人差や複数の特徴は捉えにくい。特性論は、性格は数ある特性の集合体である前提に立ち、可視的に個人差を表すことができるが、直感的には捉えにくい特徴をもつ。どちらも一長一短だ。
類型論
臨床現場で類型論的に性格を捉えようとする場合、ユングの機能類型か、クレッチマーの気質類型で考えることが多い。ユングは精神エネルギーの方向性で分類した、つまり自分自身に向く「内向型」と、他者や環境に向く「外向型」である。なお、内向型はうつ病に罹りやすいと言われている。クレッチマーは「分裂気質(神経質で内向的)」「躁鬱気質(社交的で外向的、おおらか)」「執着質(執着心と几帳面さ)」の3型に分けた。彼は気質と体型を結びつけようとして(分裂気質は痩せ型、躁鬱気質は肥満型、執着気質はマッチョ)、それは無理があったのだけれど、気質と精神病との関連はやはりあるだろう。
特性論
うちのクリニックでは心理検査「MMPI」をよく使う。MMPIの特徴は、心気的、抑うつ的、猜疑的、内向的などの10の項目が、それぞれ数値で算出されるため、個人差を捉えやすい。検査結果はグラフ化されるので、ぱっと見でどのような心理状態にあるのかを掴みやすい。臨床心理士資格試験でも頻出される検査なので、心理士同士またはチーム医療内での共通理解が得やすい。うちでは使わないのだが、その他で代表的なものはマックレー&コスタが唱えた「ビッグ・ファイブ」があり、これは外向性、調和性、誠実性、神経症的傾向、経験への開放性の観点から個人の性格を捉えようとする。
心理士の観点
初回面接で心理士は患者さんの何をみているのか。非日常な病院という場所で、白衣を着た(権威を纏った)初対面の医療従事者に対し、警戒心が働き防衛機制が発動するなかで、どのような言動をしているのかをみている。刺激に対する反応である。この人のこの振る舞いの理由や背景は何だろうと考えていると、性格じみたものの輪郭が浮かび上がってくる。
今度はその性格と訴えの症状の噛み合わせを考える。ある意味で腑に落ちる組み合わせになるのか、綺麗すぎやしないか。類型論や特性論を物差しにして、行ったり来たりする。このとき理論がないと、ただ単にフラフラするだけの徒労に終わってしまう。基準や軸があれば、一応の根拠ある仮説が立てられる。
人の性格傾向を捉えようとするとき、理論や経験をどれだけ持ち出しても、確信なんてないし、自信なんてさらさら持てない。けど、決めて、進めなきゃ、何も始まらない。限界に対して絶望しながら、やれることに最大注力する。すべてはよい診察に繋げるため、患者さんの福利に資するために、今日も私は人をみている。