例えば足の骨折が完治して再び歩行しようとするとき、リハビリから始めますよね。筋力も落ちているし、脳と運動神経のつながりも薄れているし、段階的にやることで転倒による再骨折というリスクを低減させるのです。うつ病などの精神疾患により休職を余儀なくされた方が復職する場合も同じで、リハビリとしてのリワーク・プログラム(以下、リワーク)への参加が推奨されています。
リワークとは「return to work」の略語で、気分障害などの精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーションを実施する機関で行われるプログラムのことをいいます。プログラムに応じて決まった時間に施設へ通うことで、会社へ通勤することを想定した訓練となります。また仕事に近い内容のオフィスワークや軽作業、復職後にうつ病を再発しないための疾病教育や認知行動療法などの心理療法が行われます。久しぶりの集団生活になれるために、軽スポーツやレクレーションが行われることもあります。(日本リワークうつ病協会)
私がリワークに携わって学んだことは、メンバーさんは疾病がある程度回復していないとプログラムに乗れないことと、集団で行う難しさでした。
リワークは複数人のメンバーさんで行っていきます。心理士は一人ひとりに寄り添いながらも、集団運営を念頭に進行していきます。個人に対して1から10まで関わることは不可能だったし、それをやってはいけないものだと悟りました。
極端に言えば、リワークは「場の提供」にすぎません。提供された場を復職に向けてどう活かすかは、メンバーさんの意識次第なところがあります(もちろんスタッフは全力で支援しますけどね)。そのような姿勢で臨めるほどにエネルギーが貯まっていないと、つまり疾病からの回復がされていないと、復職はおろかリワークの継続参加すら厳しいものになると感じました。実際、そうだったと思います。
リワークで提供するプログラムは、疾病も病体水準も違う個々人の集団に対して提供する特性から、最大公約数的なレベルのものにするしかありませんでした。疾病が治ってきたら、心理教育などを通じて再発防止策としてのストレスコーピングや環境調整を行うのですが、そういうのは集団で行うより、個人の心理面接やカウンセリングでやったほうがいいと思いました。個人、集団、どちらで行った方が利得が高いのか、メンバーさんと一緒に考えるのも治療計画の一環でした。
三ヶ月間のリワークを修了し復職されたメンバーさんがいました。プログラムの乗っかりが悪く、私は「復職して大丈夫だろうか、再発しないだろうか」と心配していました。ひと月後の外来診察の際に一言二言お話したのですが、元気に会社に通っているご様子でした。こちらの見立てを心地よく裏切ってくれて良かった、巣立てばよろしくやっていくもんだなと感じました。人間は逞しいです。
職場復帰の日が近づいてくると、みなさん不安を呈します。あるメンバーさんのひとことが印象的でした。「まあ、全く不安がないほうが危ないかなと。多少の不安があるほうが、いろいろ用心してやれそうじゃないですか。」不安があってはダメなのではなく、不安とどう付き合い折り合いをつけるか。復職して環境に再適応していくための準備機関としてリワークはあります。