社会人になった。うちの職場は少人数先鋭のため、早く戦力にならないといけない。気は焦るがなんせ初めての事ばかり、すんなりとは覚えられない。ミスをしてしまう。やってしまった。俺ってダメだなあという考えや、周囲に迷惑かけて申し訳ない…という気持ちに支配される。

例にあげた上記場面は、認知行動療法の治療場面に相応しい。「私は他者に迷惑をかける」という自動思考(無意識にふっと湧いてくる考え)にフォーカスし、本当にそうだろうか、この事象に対して他の認知の仕方はないかを検討し、適応的なバランス思考を生み出すのだ。ミスをすることは確かによくないことだが、ミスをすることで逆に早く覚えられることもある。ミスできるのは最初のうちだけだからむしろ積極的にチャレンジしてミスしていこう。先輩は後輩をフォローするために存在するものだ。この歳でこれだけできれば御の字だろう。考えれば色々な認知の仕方があることに気がつく。

人を怒らせてしまった。謝罪の機会すらつくってもらえないほどに拒否されてしまったようだ…。

こんな状況にも、自分が必要以上に傷つかないために、認知行動療法的な思考は役に立つ。「私は他者を不快にさせる」という自動思考に対して、私の行動は他者全員を不快にさせていただろうか、例外はなかっただろうか。怒らせてしまった相手に落ち度はないか。ゼロ100でどちらが悪いなんてことは世の中にはない。十中八九こちらに非があったとしても、2か1は相手にだって問題があったよな。そういうバランス思考に辿り着いた時、罪悪感からくる気持ちのつらさ90%は、50%くらいまでに軽減していることに気がつく。

上手くいかないことだけに執着し、自責思考から離れられなくなると、精神的に追い詰められていく。頭痛や吐き気など身体面も悲鳴を上げ始める。多かれ少なかれ、誰もがこの感じは経験したことがあるだろう。

スクリーンショット 2021-04-07 7.15.39

ミスのない人生なんてない。何歳になっても初めは誰でも初心者なのだ。何よりも「私は今この職場に適応したいんだ」と思う意気込みを大切に愛でよう。だから「なぜ私はこれをやるのか」という意味づけが大切だ。意義が明確化され信念化されば、ミスしようが貶されようが、目標を達成するために「やる」以外の選択肢はなくなる。筋肉体操の先生が語りかける「頑張るか、もっと頑張るかどっちですか?」の思考に至るよう、傷ついたこころの回復に認知行動療法を活用したい。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。