勤務先が決まった。認知症疾患医療センターの役割を担っている都内の高齢者心療内科にお世話になる。今年も4箇所で仕事することになったが、昨年と違うのは高齢者心理の濃度が高まった点にある。
高齢者に興味を持ったきっかけ
リクルート時代は「じゃらん」というメディアを担当していた。メインカスタマーの年代が自分と近かったこともあり、感性でヒット企画を生み出せた。その後に移籍した「ゆこゆこ」で、カスタマーがシニアに変わるだけで、同じ国内旅行という商材でこんなにも売れる企画が変わるのかと愕然とした。面白いと感じた。
旅行者のクチコミ投稿も質が違った。若者は「友達とはしゃげて楽しかった」「彼女とのいい思い出が作れて良かった」みたいな感じ。シニアは「夫が余命宣告されている中で、最後の思い出に残る旅行ができたことを嬉しく思っています」「足が悪くなってもバリアフリーで快適に過ごせました」など。企画した旅行がその人の人生の花道を飾るイベントになると思うと身が引き締まった。30代の私には見えない視界がひたすら神秘だった。
当時から今でも高齢者への興味関心は尽きていない。
専門領域を決める
専門性を考えるとき、決まって思い出される場面がある。
会社員を辞め、臨床心理士を目指して41歳で大学院へ進学した。基礎心理学から臨床心理学まで、理論と実践を広く学んだ。専攻した高齢者心理以外の領域もとても面白く、何も高齢者だけに狭める必要もないのかもと考えていた矢先の、クライエント中心療法の講義で大家の先生が語ってくださった話だ。
教授は「自分の専門性を定めることが怖かった」とおっしゃった。専門領域に腹を括るまで十数年かかったらしい。狭めるということは、その他を捨てることである。「当時の僕はその道で生きる覚悟が持てなかったんだ」と。年端もいかない学生に対し、こんなにも素直に自分の弱さを開き出せる姿が格好よかった。専門領域を定めることで得られる強さがあると感じた。
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専門領域を決めるのは勇気がいる。その領域においては言い逃れできなくなるからだ。昨年は臨床心理全般の仕事を経験させてもらった。そろそろ専門家として立つ準備をしなくては。今年は高齢者心理沼にどっぷり浸かることで、覚悟が決まるといいな。さてどうなるか、一年間様子をみてみることにする。