画像診断では器質的な異常が認められないのに、身体の内側から針で突かれるような痛みがあると訴える方がいる。

精神医学でいえば身体症状症、いわゆる心身症が疑われる。心身症とは、痛みや胃腸症状などのさまざまな身体症状が続くが、適切な診察・検査を行っても、身体的な病気や薬による影響としては十分に説明できない病状を呈す。

例えばその方(注:実在の人ではない)に、いつ痛みが出るのか聞くと、特定の人に嫌がらせを受けた事案が頭に浮かんでしまった時だと言う。それは嫌ですね、大変ですねと受容すると、息急き切るように心理的な困難を強く話された。

精神分析の立場では、怒りが痛みを引き起こしていると解釈することがある。精神分析はフロイトから始まる理論体系で、無意識の存在を前提としている。怒りなど自己の中に存在することを認めがたい欲望や感情・思考は無意識層に抑圧され、抑えきれない力が行き場を求めて痛みとして具現化するのだと。事実、怒りを引き起こす問題が解決された途端に痛みが消失することはある。

ただし話は単純ではなく、問題を解決しても痛みが消えないことはあるし、怒りの対象があることでエネルギーが発電され、それが生活の張り合いとしてよく機能している場合もある。後者のケースでは、問題が解決されると逆に生気を失って、体調や体力を崩していくことがある。

痛みが意味すること、その人のその痛みは何を訴えているのか。見立があって、はじめて手法に移れる。問題解決、アンガーマネジメント、リラクセーション法など、痛みに効きそうな療法はいくらでもある。見立てが肝心である。

参考:奈良こころとからだのクリニック


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。