老眼が進行している。

幼少期から視力はずっと1.5で、見えないCはほぼなかった。中年期に入り、修士論文研究の参考文献を読み漁っている頃から、視界の文字たちが滲み始め、通勤電車で本を読んで乗り物酔いするまでに至った。最近では手元を見る時には老眼鏡(桃色フレームで肌に馴染むデザインが気に入っている)をかけるのだが、その度に世界はこんなにも輪郭がはっきりしているのかと驚かされる。

シャープな世界は素敵なのだろうか。

たしかに物事は白黒ついているほうが判りやすい。敵と味方、正義と不義など、180度反対の二極化構造は捉えやすい。しかし迫り来る多様性社会とは、いうなれば曖昧模糊で良しという社会である。絶対解が存在しないゆえ、判断軸は自分自身である。今以上に、自身の価値観、アイデンティティが重要になってくる。見るべきものは外ではなくて内である。

老眼とは「そんなにパキッとみなくていいよ」という森羅万象からのサインなのかもしれない。外を見る感覚器の眼はぼやけてきたけど、自分の内面をみる心眼はクリアであり続けたいものだと願う。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。