歯科医院で今年2回目のセミナーを実施してきました。前回のテーマは臨床心理学を対人理解に役立てるでしたが、今回は依頼主の意向に沿って職員同士の相互理解を促進する内容で設計しました。私の立ち位置は、臨床心理士よりもキャリアコンサルタント寄りだったかなと感じています。

この一年で多くのスタッフが入局してきたにも関わらず、コロナ禍で昼食も一緒にとれない環境、毎年の恒例だった忘年会などの院内イベントも軒並み中止となり、職員間の結びつきの希薄化が懸念されていました。

KT性格検査

相互理解の初手は自己理解です。自分を知ることで冷静に他者との違いに着目できるようになります。孫子の兵法の一編に「彼を知り己を知れば百戦殆からず」とあります。敵の実力や現状を把握し、自分自身のことをよくわきまえれば、何度戦っても勝つことができるという教えです。外側だけよく知っていても足りないわけで、まずは自分の内面を知りましょう。

今回は「KT性格検査」を使いました。これは、自己理解や心の健康管理に役立つ質問紙法の性格検査です。50個の質問に対して「はい」「いいえ」「どちらでもない」で回答してもらいます。特徴は、対人面と仕事面の特徴がわかりやすく解説されているところです。自己採点すると「S:自己抑制型」「Z:自己開放型」「E:着実型」「N:繊細型」「P:信念確信型」の5つの性格タイプから判定されます。自己理解および他者理解を含めたコミュニケーションの円滑化のために利用されています。

受講者みなさんの感想は、当てはまっている部分とそうではない部分があるなということ。率直で正しい見解です、人間を5つの型に完全に振り分けることなんて土台無理なのですから。こういう検査は個人差や特性つまり当てはまりや外れを吟味するところに意味があります。セミナーでは自分の性格タイプをグループ内でシェアしてもらいました。みなさん、納得、意外、色々な反応をもらったようです。自己評価と他者評価、ジョハリの窓を意識した自己分析を行っていただきました。

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単純接触効果

性格検査の結果を話のネタにしながら、職員同士が1対1で2分間、全員が全員とおしゃべりしてもらいました。2時間くらい入れ替わり立ち替わりで喋り続けるという。酸欠気味になったり喉が潰れそうになったり疲労困憊な状態に晒してしまいましたが、これは職員同士の心理的距離を縮めるために、単純接触効果を狙った取り組みでした。

単純接触効果とは、アメリカの心理学者ザイアンスが提唱した、初めのうちは興味がなかったものも、何度も見たり聞いたりすると、次第に良い感情が起こるようになってくるという効果です。例えば、よく会う人や何度も聞いている音楽は、やがて好きになっていく傾向があるということです。これは見聞きすることでつくられる潜在記憶が、印象評価に誤って帰属されるというメカニズムで説明されます。人に限らず、図形、漢字、衣服、味や匂いなど、色々な事象に対して起こるので、ビジネスの広告効果も単純接触効果で説明されることがありますね。CMでの露出が多いほど良い商品だと思ってしまうのです。

同じ職場で仕事している仲間でも、会話を交したことがない人って、どこか他所の人という感じがしませんか。頼み事をしなくてはならない場面では少し臆しませんか。喋ったことがあるかないかは他者印象を雲泥の差ほどに変えてしまいます。今回の取り組みが単純接触効果を生む初めの一歩になればと願っていました。

参加者のみなさんの感想は、職種が違うと話をする機会があるようでないのでこういう場で2分だけでも話ができて仕事がしやすくなったように感じる、普段話をしていない仲間との会話は有意義だった、など好評価な意見が多かったです。喋るとか触れるとか、アナログな活動がどれだけ人間にとって重要なことか、改めて認識させられました。

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セミナー後に書いてもらったアンケートのフリコメ欄に「絡みの少ない部署の方が私の普段の仕事ぶりを褒めてくれた。嬉しかったし、今度は自分が褒め言葉をかけられるように、みんなの仕事にもアンテナを張ろうと思う」と書かれた方がいらっしゃいました。リッツ・カールトンのファーストクラスカードを思い出しました。

社員同士で感謝を伝え合うザ・リッツ・カールトンのファーストクラスカード 離職率を減らす・改善する!社員のやる気を引き出す社内制度 | 社長の教室│高良高公式ブログ日本をはじめ世界中にフランチャイズを持つ、非常に有名な高級リゾートホテル「ザ・リッツ・カールトン」そんなリッツ・カールトンwww.president-school.com

今回のセミナーで職員同士の心理的距離は少し縮まったと感じています。ここを起点に、お互いが認め合い褒め合い助け合える最強の組織を目指していきたいです。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。