強迫症または強迫性障害をご存知でしょうか。強迫症は、きわめて強い不安感や不快感(強迫観念)をもち、それを打ち消すための行為(強迫行為)を繰り返してしまう病です。
例を挙げると、病気になるのではないかと心配になって、汚いと思うものを触った後に何度も手を洗ってしまう洗浄強迫。ドアの鍵を閉め忘れたのではないかと、何度も駅から自宅に戻って確認してしまう確認強迫。「死」「悪」などの特定の文字を見ると「善」「幸」などの文字に置き換えないと、不幸が降りかかる気がする縁起恐怖。多かれ少なかれ誰しもが身に覚えのある観念や行動ですが、日常生活に侵食するほど大きくなると強迫症となります。
そういう場面に出くわさないようにと、回避で対処しようとする方がいらっしゃいますが、何も触らないとか「死」「悪」の文字を絶対に見ないようにする生活は現実的には不可能です。回避行動は行動範囲を極端に狭めてしまうため、ある程度までは通用しますが、根本解決には至らない対処法です。
では、どうするのでしょうか。
行動療法の一種である暴露療法(エクスポージャー)を使います。行動療法とは、問題行動を誤った学習によるもの、あるいは適切な学習がなされていないものとみなし、条件づけなどの学習理論を用いて、不適切な行動の消去と、適切な行動の獲得を目指す心理療法です。うつ病治療などで用いられる認知行動療法とはきょうだいみたいな関係で、要は行動面からアプローチするのか認知面からアプローチするかの違いであり、両者の原理は認知行動モデルから説明できます。
認知行動モデルでは「基本的に人間の言動情動というのは、刺激に対する反応である」と定義されます。刺激とは自分の外側の世界、つまり目の前にある状況であったり、他者の存在です。その刺激を感受したときに、自分の中で認知、行動、気分、身体に変化が起こるのです。そして、気分と身体は自分ではコントロールできません。楽しいことをしているときに悲しい感情になってくださいとか、恥をかいて赤面しているときに顔色を元に戻してくださいと言われても対処できないですよね。自分でコントロールできるのは、「認知」と「行動」です。
先に例を挙げた、病気になるのではないかと不安になって、汚いと思うものを触った後に何度も手を洗ってしまう洗浄強迫にあてはめると、不安(←気分)を取り除きたくて、手を洗っている(←行動)と当てはめることができます。
強迫症では、この「行動」がさらに強迫観念を強化しているのです。下図をご覧ください。手を洗う強迫行為をすると、一時的に不安は低減するのですが、表面的な対応をしたに過ぎず、やがて次の不安がやってきます。そこでまた強迫行動をするとまた一時的に不安が低減して…の繰り返しとなります。良くないことに不安感度は段々と高まっていき、強迫観念はさらに強まっていくことになります。
暴露療法(エクスポージャー)のひとつである暴露反応妨害法は、強迫症との相性の良さで知られます。不安な気分にあえて立ち向かい、これまで不安を下げるためにしてきたことをあえてしない方略をとります。
不安などの気分というものは、最初は強いのですが、やがて必ず弱まります。これは「人間はいずれ死を迎える」と同じくらいの自然の理です。まずはこれを信じてもらい、この前提に立つところから治療は始まります。
暴露反応妨害法を行ってみましょう。始めは不安が上がりますが、苦手な環境に直面し続けると、およそ1時間30分から2時間で、必ず不安は下がります。これを繰り返し実行して実感してもらいます。何度も行なっていくと、刺激に暴露された際に起こる不安の大きが徐々に小さくなり、不安が治るまでの時間も短縮されていきます。さらに繰り返し行なっていくと、刺激場面に晒されても不安を感じなくなります。たとえ強迫観念が起きても、強迫行為をせずにやり過ごせる耐性が身につくのです。
安心安全に行うために専門家との二人三脚で行うのことをお勧めします。当事者のセルフアセスメントで間違った手順で進めると、かえって症状を悪化させる事があります。認知行動療法を使える心理士なら対応できますので、お近くのメンタルクリニックに一度ご相談ください。きっとお役に立てると思います。