ゴルフを始めた。今まで幾度となく機会はあったものの、なんとなく避けてきていた。その理由は、運動は週イチでサッカーがやれているし、お金がかかるし、歳取り始めるとみんなそこに流れる付和雷同が嫌だったから。

11月末に高校の同級生が年始にラウンドしようと提案してきた。断りにくい事情があったし、サッカーはイメージ通りのプレイができなく引退の想いも出始めたので、ようやく重い腰を上げたというわけ。実家の物置に鎮座する父親のクラブを借りて、週イチ練習に励んだ。デビュー戦のスコアは141で、ハンデ付けても断トツのビリとなり、男気選手権で大枚を払う羽目になったが、けっこう楽しめた。みんなで集まる理由にゴルフは丁度いい。次回はリベンジする。

さて、新しいことに挑戦する、ゼロからイチに動き出す瞬間というのは、相当なエネルギーを必要とする。高齢者に対して認知機能検査を行うと痛感するのだが、老化現象による体力の低下に伴い新しいことへの意欲が低下している。知能面からもそれは言えて、キャッテルは知能を流動性知能と結晶性知能で整理しており、流動性知能とは新たな場面への適応に必要な知能、結晶性知能とは経験や学習により獲得される知能である。流動性知能は20歳をピークに65歳前後から低下すると言われている。年齢を重ねていくと生理現象として、新しいものの取り入れが苦手になってくるのだ。

これは若手である45歳の私でも身に覚えがある。ともすると新しい手法より経験で培われた結晶性知能でやりくりしたいと望んでしまう。流動性知能は日頃の生活や仕事の中で、意識的に鍛えていたいと思う。

クラブを振ってボールを打っていて気がついたことがある。まず、上手く打つには脱力が重要らしい。力むほどに飛ばず、程よく力みが抜けた時ほどキレイに飛ぶのだ。長年やってきたサッカーのシュートと同じだ。打とうとするのではなく、クラブの重さで描かれる自然なスイング軌道を邪魔しない力で振ると、結果的に上手く打てる。理屈は判ったのだが、言うは易し行うは難しである。

サッカーであれば40年近くボールを蹴ってきたから、ボールのどの部分をどれくらいの力と角度で蹴ったらどう飛ぶか、イメージと実際の軌道がほぼ一致している。これは単に練習の積み重ねの賜物なのだ。修練でしか上達の道はない。

次に、ゴルフは飛ばすスポーツではないこともわかった。トータルの打数を競うスポーツなのだから、特に初心者はいかに刻むかを考えたほうがいい。ドライバーでスコーンといけば格好いいし爽快だが、アイアンでアプローチの距離感を掴む練習に時間を割いた方が、結果にはつながりやすそうだ。

もうひとつ、練習場で打つのとゴルフ場で打つのとでは別物だということ。整地された人工芝で打てても、天然芝やラフや勾配では練習みたいにはいかない。現場に出てやってみないとわからないことが沢山あった。

ああ、なんだ、臨床と同じじゃないか、と。現状で良しとせずに、自身のアップデートを続ける。余白をもって力み過ぎない。やることでしか上達の道はない。ゴールを設定し、急がず着実に回復改善の一途を歩む。現場に出ないとわからないことがある。仕事も遊びもスポーツも、全て同じらしい。

さて、次は何に手をつけようか。将棋、ロードバイク、英会話、緑茶、カメレオンの飼育、動画編集……。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。