」を辞書で引いてみると、①事実でないこと。また、人を騙すために言う事実とは違う言葉。偽り。②正しくないこと。誤り。③適切でないこと。望ましくないこと。とあります。

私にとって事実でも、相手にとって事実ではなければ、お互いに「相手が嘘をついている」ということになります。何が事実で何が嘘かは外側からは判断できません。臨床心理学でいえば、認知の偏りが大きい人、精神病を患う人などは、物事の捉え方に特徴的があるため、嘘と事実がより一層判別しにくくなります。

防衛機制としての嘘では、反動形成があります。反動形成とは、抑圧した欲望や想いが言動として表れるのを防ぐため、正反対の言動をとることです。例えば、苦手な同僚へ進言する時に過度な丁寧さをもって行う、などがそれに当たります。この行動は自分に対して嘘をついた行動も言えます。一方で、不快な感情や体験から自我を守る必要な手段とも解釈できます。必要嘘ですね。

虚言症の人の嘘は、嘘の域を超えた嘘です。虚言症の人は願望や空想を現実と混同し、事実だと信じ込んでいます。自分をより良く見せたい虚栄心や強迫観念という側面から理解できます。嘘を言ってないと自我が保てないくらい、内実と外実のバランスが悪い状態になっているのです。

女性に多い演技性パーソナリティ障害の人の嘘は、役者が演技をするかの如く、周囲に対して過度に自分をアピールします。自分が注目の中心でないと気が済まないので、虚言を発して人を惹きつけようとしているのです。意図的にそうした行動をとります。「見放され不安」や「守ってほしい願望」の裏返し行動として解釈できます。

認知症の人の嘘は、とりつくろい発言かもしれません。短期記憶が途切れ途切れになるため、会話中に脈絡が繋がらなくなり、辻褄が合うように作話することがあります。周囲からすれば「またそんな嘘ばっかり言って」となるかもしれませんが、本人からすれば嘘を言ってるわけではないのです。この嘘に悪気はありません。

統合失調症の人の幻想や幻覚は、周囲から見れば嘘ですが、本人からすれば完璧なる事実です。統合失調症の人の幻想は「テレビで自分のことが話題になっている」「ずっと監視されている」など、実際にはないことを強く確信するのが特徴で、幻覚は、周りに誰もいないのに命令する声や悪口が聞こえたり(幻聴)、ないはずのものが見えたり(幻視)して、それを現実的な感覚として知覚するのが特徴です。本当のことを言っているのに他人から「嘘つくな」と言われるとムカついたり悲しくなったりしますよね。統合失調症の陽性症状期にある人に対しては、発言に対して受容する姿勢が大切です。不安を愛でることで安定に向かいます。

さてここまで精神医学的な嘘をみてきましたが、では一般的な会話における嘘を見破るコツはあるのでしょうか。

ヒトが持つコミュニケーションツールは、言葉を別にすれば、顔→手→足の順で優れているといいます。つまり人の感情や意思は「表情」に最も現れやすいのです。嘘のサインが出やすいのはその逆で、足→手→顔の順番になります。人は嘘をつく時、意識的にポーカーフェイスを装い、自分の目で確認できる手の動きにも意識を向ける傾向があります。一番疎かにしやすい「足」に本音が出てしまうのです。普段しない人が足を頻繁に組み替えたり、足揺すりをしているとき、それは嘘をついているサインかもしれません。

嘘は泥棒の始まり、嘘も方便、大嘘はつくとも小嘘はつくな。嘘とひことこに言っても、色々な嘘があるものです。

参考:「見ため・口ぐせの心理学」渋谷昌三著(西東社)2014


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。