都内にある特別養護老人ホームで職員心理相談を行なっていた。心療内科での常勤が決まり、こちらの仕事は終了となったため、記録として得た学びを残しておく。

職員からの心理相談がない日は、デイサービスの現場に参加させてもらった。介護士がどのように高齢の参加者に接するのか、何に気をつけているのか、職員同士の連携はどうなのかなど、有意義な観察学習となった。人同士のセッションゆえ、画一な対応様式はないことがわかった。原理原則を柱にして、個性を生かし、特性に合わせたサービスを展開していく。言葉にすれば簡単だが、実行するのは難しい。

人間関係に悩む人の多さよ。介護職のストレスなのか、認知の偏りはその人の特性なのか。ストレスコーピングや対人スキルのバリエーションについて心理教育する機会が多かった。会社員時代にはあまり出会わなかった特性を持つ職員がいたりして、私の人間観は大きく広げられた。

職員相談業務でいえば、私は千葉県にある歯科医院でも職員心理相談を請け負っている。が、こちらは職員からの相談案件が舞い込んでこない。職種、地域性、職場環境によって、同じ職員心相談でも方法や目的を変える必要性に気づけた。

ケアマネのカンファレンスに参加したのも貴重な経験となった。心理職になって初めて多職種連携を体感した瞬間であった。心理の専門用語ばかり使わない、長広舌にならない、他職種の目線になって話を聞き心理の専門家として解釈する。お互いに信頼関係を築けていると、建設的な議論になりやすい。

福祉からみる高齢者と、医療からみる高齢者の違いも、なんとなく実感できた。

ちなみに、介護が必要な家族が居る家庭をサポートする仕組みに「デイサービス」と「デイケア」がある。どちらも「介護サービス」の括りに入るものであるが、実はそれぞれ異なった特徴を持っている。まず、デイサービスは福祉色が強く、主たる目的は、利用者が自宅で自立した日常生活を送ることができるように支援することにあり、日常生活の介護を中心に力を入れている。 一方、デイケアは医療色が強く、主たる目的は、身体機能の回復と維持、日常生活の回復、認知機能の改善にあり、リハビリテーションなどの医療的ケアに力を入れている。

私は今、医療現場で高齢者デイケアの企画運営を行なっている。参加者への接し方、多職種連携など、ここでの経験がとても役に立っている。至らないことばかりではあるが、皆が心地よく過ごせる場つくりに尽力していくつもりだ。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。