サッカー日本代表の躍動に世界が驚いている。日本チームの戦術は何かと問われたら「個の特徴を生かしつつ連動で攻守する」「体格差は圧倒的な運動量とアジリティで補う」「これを最後までやり抜くタフネス」「弱者であることを受け入れ変に計算せずに最初から全開するリスクテイク」ではなかろうか。

この戦術に聞覚があるのは、サッカーより先にセンセーショナルを起こしたラグビー元日本代表HC エディー・ジョーンズ氏が常々語っていた「JAPAN’S WAY」そのものだからだ。

「日本人は体つきが決して大きくない。個人ではなく、全体、チームでスピードを上げてプレーすること。頭を使って戦術的にプレーすること。物凄いファイティングスピリットを持って戦うこと。これが JAPAN’S WAY だろう」

エディー・ジョーンズ

さらに、氏はこうも言っている。

「コピーをしてしまうと、オリジナルには絶対に敵わないんですよ」

エディー・ジョーンズ

そう、「らしさ」が重要なのだ。

もうひとつ例を挙げると、バスケット日本代表指揮官のトム・ホーバスが掲げる戦術は「しつこいディフェンス」「スピード」「3ポイントシュート」。これもやはり日本の特徴を生かしている。特筆すべきは成功率の低い飛び道具をファーストオプションに据える勇気。上背で劣る我々が世界に勝るためのリスクテイク。前人未到だからこそ、これがオリジナルになる。

どれだけ「らしさ」を出し、ユニークに戦えるか。これは代表に限らず、我々個々人にも同じことが言えるのではないか。

我々はしばしば他者と自分を比較して、他者を羨んだり、自分を蔑んだりする。他者と同じように成ろうとしては駄目なのである。そもそも成れないのだし、成る必要もないのだ。それよりも、自分のできること・好きなこと・得意なこと、または周囲から評価されたことなどに着目しよう。他者より勝っているか?とか、優れているか?などの視点はいらない。相対ではなく絶対評価で考える。いくつか出てきた項目の集合体、それこそがあなた自身のオリジナルである。

他者を尊敬しすぎることなく、勇気を持って自分のアイデンティティを確立する。ないものねだりではなく、できること・好きなこと・得意なこと、持っている部分に努力を注ぐ。その先に大きな夢が加われば、実現することができる。来談者中心療法PCAの創始者C・ロジャーズは「人間とはより良き「生」に向かって歩む主体的存在である」と言った。定まりさえすれば、人は皆、自主的に歩を進められる。

代表選手おのおのの個性は、結局はこのプロセスを突き詰めて出来上がった結晶のようなもの、なのだろう。グループリーグと決勝トーナメントでは戦い方が変わる。クロアチアは巧者だ。我々に失うものはない。駆け引きせずに全力でぶつかり、歴史を創ろう。応援している。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。