日経電子版に、ファストリが従業員の賃金を引き上げるという記事があった。世界的インフレや円安の影響による物価上昇に対し、政府は経済界に対して賃金上昇を要請している。ファストリは旗振り役なのだ。

柳井さんの「25歳をすぎれば人間は一緒だ」という言葉に目が止まった。報酬制度において、過去の延長線上にある思考停止な年功序列は廃止し、成果に則した実力主義を徹底するという。賛成だ。年齢を重ねた既得権だけで高給をとるのはおかしい。年齢に伴う経験や実績を活かして成果を出し続ける人もいれば、活かさずにあぐらを掻いている人もいる訳で。成果に対して相当の報酬が与えられる社会であってほしい。

年齢が上がればその分経験値が積まれる。ここに疑問を抱く人はいないだろう。私は今、心理士として心療内科で高齢者デイケアも運営しているのだが、歳を重ねることでしか醸せない気品をもつ方々と多く接している。酸いも甘いも受容して、凪のような落ち着きがある。周囲に忖度せずに、真っ直ぐに生きる姿にうっとりしてしまう。

エリクソンのライフサイクル生涯発達理論によれば、年代ごとに人生から突きつけられる課題があるという。勝手な想像だが、意識してか無意識かは別としても、素敵さを持つ人は、この人生課題を乗り越えてきた人たちなのだろう。

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「心理学 第3版」鹿取廣人ら編,2010(東京大学出版会)

私の年齢でいえば成人期にあたる。世代性の課題はまだ感じていない。成人前期と成人期の間くらいにいるのだろう。50代、60代、70代と心理士として現役を続けていきたい。その過程で次世代への伝達のテーマが突きつけられるのかもしれない。老年期の課題は、想像はできるが、実感値が湧かな過ぎて、遠い存在に思えてしまう。

日々の仕事を通じて、人生の先輩方との接点の中で、私も自我の統合を目指していく。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。