今、通勤電車で読んでる本は「心理療法・失敗例の臨床研究 改訂増補 その予防と治療関係の立て直し方」岩壁茂著(2007)です。読了したら参考文を改めてまとめるとして、非常に興味深かった箇所を先出しします。心理カウンセリングの失敗要因について、です。
何をもって失敗/成功とするのかが難しい前提で、ひとつ失敗とは、今以上に症状等を悪化させることとしましょう。ある調査結果によれば、心理療法の効果に影響する因子と割合は以下の通りだといいます。
40%|クライエント治療以外の要因
30%|治療関係
15%|技法・モデル
15%|プラシーボ効果(期待)
補足すると「クライエント治療以外の要因」とは、クライエントの問題または障害の重篤度、慢性度、楽観主義傾向などのパーソナリティ特性、心理療法に対する動機づけの高さ、家族や友人など自助グループ及びソーシャルネットワークの有無などとお考えください。
これを見た時に「まあ、こんな感じよな」と思いました。この影響因子と割合を想定してないセラピストおよびカウンセリングでは、失敗リスクが高まります。
セラピストの存在は、改善に向かう複数要因の一部でしかない、ということです。それが真実であり、それはとても自然なことです。大学院時代に教授が仰った「心理学やってると、世の全ての事象を心理学で説明できる感覚に陥るんだけど、それは錯覚であり傲慢だよ。気をつけましょうね」という金言を思い出しました。
ではセラピストの存在は弱小かと言われれば、そんなことはありません。病に押し込まれて異常に陥っている個人にとって、専門性をもって横に居てくれる存在がどれだけ心強いか。独りで抱え込まなくていい安心感は、改善の好因子です。臨床現場に数年間立たせてもらって、これは実感値から得られた確証です。
「技法・モデル」よりも「治療関係」のほうが影響度が大きいのは特筆です。セラピストは技術よりも姿勢が先にくることを忘れてはいけません。そこに本人の意欲・期待が交わり、打ち手の効果が最大化するのです。
心理療法は、医学的治療のように、障害に対して特定の治療法または治療手続きを正しく適用すれば治癒が約束されるものではありません。介入法が成功するには、クライエント個人のさまざまな要因を考慮して、治療関係を確立・維持することが必須です。心理療法とは、医療モデルではなく、関係性の上に成り立つ治療的営みである点で、文脈モデルであると捉えるべきなのでしょう。