勤務している心療内科は、区の認知症疾患センターの認定を受けており、地域連携を目的とした「認知症カフェ」を定期的に開催しています。今回はちょっとした勉強会ということで、高齢者デイケアや認知機能検査を担当している心理士の私が登壇することになりました。テーマは「介護ストレスの対処法」。介護者という役割を担うことになった家族へ向けた内容で構成しました。

そもそもなぜ、介護がストレスになるのでしょう。私は2つの要点があると思います。1つは精神的な要素で初めての経験ゆえの不安、もう1つは身体的な要素で体力的な疲労です。

精神的な介護不安の軽減

介護者の不安を掻き立てる要素には「介護を受ける家族の認知機能が低下し、今まで出来ていたことが出来なくなっていく姿を受け入れられない」ことがあるでしょう。

解決方法というか、考え方の転換なのですが、出来ていた姿を理想として、出来ない姿を現実と置くから、理想と現実の落差にショックを受けるのです。「過去は出来ていたけど今は出来ない」という時間の連続性の中で捉えるのではなく、過去は過去、今は今であると、過去と現実に線を仕切りをつけてあげるのです。「今」を独立した存在として観ることで、「今できていること」と「今できないこと」という並列関係の区別が生まれます。並列なので優劣ではありません。今出来ることは引き続き出来る限りはやってもらい、今出来ないことはサポートする。この認識や姿勢がもてると、世界が変わります。

「認知症という病のために、介護を受ける家族の姿言動がどう変化していくのか、予想がつかない」という不安の声もよく聞きます。

認知症についての知識を入れておきましょう。ヒトは先行きがみえない事案に対して不安を抱きます。知識武装、理論武装はこれを軽減してくれるはずです。

認知症の症状には9大法則というものがあります。病気の特性や特徴を知っていれば、今もしくはこの先にどんな症状がでるかもしれないという予測が立ちます。個人差があるため、すべてが予測通りに進みませんが、ある程度の道筋が見えることで、不安はだいぶ軽減されます。

身体疲労の軽減

認知症を患った家族の介護では、歩行の補助、排泄や入浴などの介助など、身体的な負担が発生します。

「リラクセーション法」を活用しましょう。全身マッサージが一番効くとは思いますが、日々のちょっとした時間の中でセルフでさっと行える「呼吸法」や「ツボ押し」がおすすめです。

https://note.com/embed/notes/n255f6b511d77

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ストレス・コーピング

ワークシートを使って、ご自身のストレス・コーピングの棚卸しを行っていただきました。まずは、ご自身のストレス対象法を思いつくまま書き出してもらいます。次に、書き出した項目を以下の4象限(ストレスに対して積極的/消極的に関わるコーピング、自分自身の感情に対して積極的/消極的に関わるコーピング)に分類していただきます。これだけで今の自分の手数の量と偏りの傾向がつかめます。

介護スケジュールは「自分時間の確保」からつくっていく、ひとりで抱えず医療・福祉のサポーターを上手く活用する、などの観点を盛り込み、また呼吸法やツボ押しなどのリラクセーション法も、ワークシートに追記してもらいました。ポイントは「手数は多く」「偏りは少なく」です。

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今回は、精神面や身体面の負担の軽減の仕方をお話しし、ストレス・コーピングの棚卸しを行いました。介護ストレスが少しでも緩和されるようなお手伝いが今後もできればと思っています。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。