関わっているキャリアカウンセリングのトレーニングプログラムの中に、インナーチャイルド・ワークがあります。「インナーチャイルド」「アダルトチルドレン」「アダルトチャイルド」「愛着」。私自身なんかここら辺がごちゃごちゃしているので、整理してみようと思います。
インナーチャイルドの直訳は「内なる子ども」です。こころにある「純真無垢な自己の部分」といった意味の概念的なもので、精神世界やスピリチュアルの領域でよく用いられる用語です。
幼少期の家庭環境によってインナーチャイルドが傷つくと、負の感情が発生します。ヒトは大人になるにつれて身も心も成長し、社会生活や人間関係を円滑に進められるようになりますが、インナーチャイルドの傷を適切に処理できないまま大人になると、そこに端を発した生きづらさが生じるのです。この状態にある人をアダルトチルドレン(総称的な名称、以下AC)もしくはアダルトチャイルド(個人を指す場合)とよびます。
ACの方のインナーチャイルドは小さく硬く、おどおどしてうずくまっています。この小さなインナーチャイルドを癒し、開放し、自由にし、成長を促して今の大人としての成熟度まで育てる作業が、インナーチャイルド・ワークです。
インナーチャイルド・ワークでは、まずは自分がACであることを認めることから始めます。自分自身に起きている問題事がこころの傷とどう関係しているか、またその傷はどのようにしてついたかを内省します。次にこころの傷を癒します。傷を嘆き、語りかけ、解釈による再構築を施し、インナーチャイルドを育てて傷を捨て去り、今の自分を受け入れます。最後に新しい自分をつくります。これからの人生の技術を考え、より健全な人間関係が持てるように進めます。
ワークの詳細は書籍やネットサイトにあるので割愛します。基本的にはどれも同じ様式だと思います。ポイントは進め方でしょう。セルフでおこなってもいいですが、私は専門家と一緒に行うことをお勧めします。精神的にキツい作業であること(安全面)と深掘りの深度(成果面)の観点です。
以下蛇足ですが、 似た用語「愛着障害」との区別を。まず愛着とは、心理学者ボウルビィによって提唱された、主に養育者と乳児の間に成立する情緒的な結びつきのことをいいます。家庭環境などの影響により愛着形成が不全であると生きづらさにつながります。愛着障害は病気であり、ACは状態を差します。双方は似ているけど、定義が違うし、形成されてくる時期・時間軸が違います。
愛着障害は「ICD-10」では「小児期の反応性愛着障害」と記載されます。素直に大人に甘えたり、頼ったりできないことが症状としての基本的特徴です。0歳児の頃から親に無視されたり、虐待されたりするなど、著しく不適切な養育環境におかれた子どもにみられます。言葉の遅れや、低栄養による身体的な成長の遅れがみられる場合もあります。 この障害のある子どもは相手を過度に警戒しており、大人に近づくときに視線をそらしていたり、抱っこされている間もとんでもない方向をじっと見ていたりします。なだめたり、はげましたりしても効果がありません。自分や他人への攻撃性がみられ、みじめさを感じています。
アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」においては「反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害」として解説されています。選択的アタッチメント(養育者との愛着関係)を作る能力はあるのに、産まれてから早い段階で無視されたり、虐待されたりしたため、苦痛を感じたときにも抱っこされたり、はげましてもらったりしようとしません。陽性の感情(楽しい、嬉しいなど)を表すことが少なく、陰性の感情(恐怖、悲しみ、いらだちなど)をよく示します。なお、この障害は愛着関係を作ることができる発達段階以前の子どもには診断されません。少なくとも生後9ヵ月の発達年齢に達していることが診断要件のひとつになります。
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私はいままでインナーチャイルドやACに対し懐疑的かつ回避的でした。たぶん精神世界やスピリチュアルの要素が強くて、どこか空中戦しているふわふわ感が居心地悪かったのでしょう。愛着障害など病気認定されているほうが地上戦の安心感を抱けるのは、私個人の価値観や直感的なものです。
インナーチャイルドワークで生きづらさの緩和ができている方がごまんといます。乱暴に言えば科学的でなくとも効けば何でも良いのが心理臨床です。自分自身の気持ち悪さも清濁合わせ飲んで、私が提供できる幅を広げていきたいと思います。