現在の職場や仕事に悩みを感じ、転職も視野に入れてる方の多くが「安定したキャリアを送りたい」と言う。安定とは?と尋ねると9割位は「正規雇用」と答える。

正規雇用とは、労働契約関係のうち、期間を定めないで雇用するもの。いわゆる正社員がこれにあたる。一方、アルバイト・契約社員・派遣社員など、それ以外の雇用形態は「非正規雇用」という。正規雇用された労働者は法律上の保護が強く、雇用保険、社会保険の加入義務がある、退職金の支給がある等、比較的安定した立場で働ける。

創業手帳

正規雇用は、比較的安定した立場で働けるが、キャリアの安定と同義ではない。

私と勤務先の心療内科との雇用契約は、一昨年前はパートタイム、昨年からは正社員である。どちらの雇用形態にもメリデメがあった。正社員は窮屈さがある。経済的には継続的な安定さがあるが、心理専門性の低い仕事も担うことになった。パートタイムは心理カウンセリングや心理検査のみに専念できるが、継続雇用の心配がつきまとう。はたしてどちらの契約が自分にとって良かったのかは微妙なところである。大きな学びであった。

やりたいことをやるのが「安定したキャリア」なのかもしれない。

心理士になる前は、旅行関係の会社で正規雇用されていた。無期限雇用や組織におんぶに抱っこでいいのかと、危機感と不安感を抱いていた。会社が潰れたらどうなるのか、手に職はついているのか、異動で不本意な仕事に際したらやっていけるのだろうか、この気持ちのままあと25年働くのか、など。5年間うじうじ悩んで、これだけ悩んでも消えない情熱ならそっち行こうと決めて会社員を辞め、その先どうなるかもわからない心理の世界に飛び込み、結果、なんとかなった。稼ぎは減ったし雇用の不安定さはあるのに、今の方がよっぽど安定してると感じる。

安定したキャリアとは幻想である。キャリアなんてそもそもが不安定なものであり、一言で言えば、やりたいことをやる、これに尽きるのではないか。自己決断のキャリアであれば、どんな道でも受け入れられるだろう。やりたいことは必ず自分の中にある。探しても見つからない時は、目の前の仕事を一生懸命やろう。やってるうちに自分の指向性がおぼろげに姿を表す。こころの声に耳をすまそう。行動に移すまでには当然悩む。悩むことは重要だ。悩みの先に道がある。

さて、その先の話になるが、悲しいことに、やりたいことをやると批判を受け始める。

私は心療内科勤務の他に、キャリトレーニングを提供するスタートアップ企業と業務委託契約を結び心理士業務に就いている。1年半が経った。二足のわらじは、仮にどちらかが倒れても片方がある安心感をもたらし、気分転換にもなる。一方で「お前は医療と産業どちらが専門なんだ」とつっこまれることもある。「どっちつかずはよくないですよねえ」とひらり躱している。私は脱サラ心理士という色物で、心理の専門道は40歳からの遅咲きだし、真向勝負では純粋培養の方々には到底敵わない。これまでの経験や今ある技術を駆使してやっていくのが、私らしい私がやりたいキャリアだろう。

この道を行けばどうなるものか。 危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。 踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。 迷わず行けよ、行けばわかるさ。

アントニオ猪木

本当にそうだなと、最近はよくこの言葉に勇気をもらっている。

キャリアという実態の掴めないことを考えればおのずと悩む。悩む時は独りで抱え込まずに周囲の仲間や専門家を頼ろう。支えられることで力が湧いてくる。あとは信じて進むだけ。迷わず行けよ、行けばわかるさ。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。