「自己肯定感が低くて、自分を好きになれない」と相談されることがあります。自分を嫌いな人が自分を好きになるのは結構困難な作業になりますが、自己肯定感を高めたいのであれば、必ずしも自分のことを好きになる必要はないので、前者よりは比較的安易に変化を起こせるかもしれません。
自己肯定感を定義すると「ありのままの自分を肯定すること、自分を価値ある存在だと受け入れられること」です。言い換えれば「自己受容」です。
自己肯定感=自分の事が好き、ではありません。
自己肯定の対義語は自己否定です。自己否定=自分ことが嫌い、でいいのですが、自己肯定は自分のことが好き、とは違います。自己肯定とは、好きとか嫌いではなく、そうした自己評価も含めて、等身大の自分を受け止めることです。
もうひとつ。自己肯定感=ポジティブ、とも違います。
自己否定を「ネガティブ・悲観的」だとすると、その対極にあるのは「ポジティブ・前向き」でしょうが、自己肯定はここに位置しません。自己肯定感は、ネガティブとポジティブを行ったり来たりできるバランスの状態なのです。
自己肯定感の高い人が皆、自分自身のことを好きな訳ではありません。皆がポジティブ思考の持ち主でもありません。少なくとも私はそうです。自分自身に対して、嫌い、情けない、総とっかえしたい部分が山ほどあります。物事にあたる際に最初に出てくるイメージは失敗したくないとか、上手くやれるかなというネガティブな不安です。が、自己肯定感は低くないと思ってます。そんな自分も含めてそれが自分だし、個性だし、この感じでなんとかやってきたし、この先もやっていくしかないし…という心境です。
アイデンティティの感覚に近いのかもしれませんね。理想はあるにせよ、ある種の諦めというか、自分が何者であるか、どういう人間なのかを腹に据えている、つまり自己受容ですよね。
では、自己肯定感を高めるにはどうしたらよいのでしょう。結論から言えば「等身大の自分を知る」「バランス思考になる」「ポジティブをつかむ」この3つがキーワードになります。
具体的なワークは、
・自己分析で自分の得手不得手や良い面よくない面などを明らかにする
・物事の捉え方をバランス思考にするために認知行動療法を取り入れる
・いいこと3つ日記などをつけてポジティブに気が付きやすい体質に改善する
・自己効力感を高めるためにやれたこと日記をつける
などが挙げられます。
ポイントは最初から直結的に自己肯定感を高めにいかないことです。例示したワークは「等身大の自分を知る」「バランス思考になる」「ポジティブをつかむ」ために行います。結果として、自己肯定感の高まりを感じることになるでしょう。
自己効力感は、そういう意味では「心理的安全性」に似ているかもしれません。例えば職場で若手が自由に発言しやすい雰囲気をつくるために厳しいことを言わないようにした結果、ただのぬるい職場になってしまう、あの現象です。それを目的とした施策ではそれが実現しないパラドックス。心理的安全性とは、真摯に向き合ったコミュニケーションの中に育まれるもので、結果として我々の後ろに出来上がっているものです。
自己肯定感は、他者との対話、己と向き合うこと、さまざまな経験の中から、時間をかけて形成されるものです。ワークも含めてですが、ひとりでやろうとしないことです。信頼できる他者と一緒に進められるといいでしょう。