認知症と熱海旅行|ココカリ心理学コラム

ココカリ心理学コラム

私が勤務している病院は、認知症疾患医療センターの機能も果たしている。運営しているデイケアで今回、数名の患者さんを対象に、熱海日帰り旅行プログラムを実施してきた。

認知症の知識に疎い方であれば「認知症って、私は誰?ここはどこ?になるあれでしょ。旅行なんてできるの?」という疑問を持つかもしれない。それは進行して重度に陥った状態である。軽度であれば普段の振る舞いだけではプロの目をしても認知症を患っているかどうかわからないこともあるし、中程度になっても自立した日常生活をおくれる場面は多い。

当日は、いつもの時間に病院に集合し、新幹線で熱海へ向かった。新幹線の切符購入など、普段とは違う行動についてはスタッフのサポートが必要だった。ホテルへの送迎バスを待つ間の駅前の足湯が気持ちよかった。清掃時間を調整していただき、ほぼ貸切状態で温泉を愉しんだ。昼食は量を全体的に少なめにしてもらい、お造りを出してもらった。座敷ではなく、椅子机の会場が、膝や腰が痛む高齢者には嬉しかった。駅前の商店街でソフトクリームを食べ、おみやげ選びを興じた。

2週間後のデイケアで、熱海で撮った写真をお渡ししたところ、あまり覚えていない様子だったが、笑顔で写る自分の顔を嬉しそうに眺めていた。認知症によるもの忘れは体験そのものが抜ける。ヒントがあっても想起することができない。しかし、感情は残る。その瞬間瞬間が楽しいものであれば、総じてQOLが高まってくのである。

臨床心理士を志す前に「臨床心理士になって何をしたいか」を考えた。いくつか挙げた中に「旅行を通じて認知症を患う高齢者のQOLを高める」があった。「じゃらん」「ゆこゆこ」と旅行関係の仕事に従事してきた私だからこその想いであった。6年が経ち、やっと実現させることができた。私としては感慨深く、参加者も愉しんでくれて、とても良い時間を過ごすことができた。



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