強烈な希死念慮を抱く人との心理カウンセリングは、心理士としての限界、自分の無力感に打ちのめされる時間になる。「死にたい」この言葉を前にして、かけられる言葉なんてない。無条件の肯定的配慮・共感的理解・自己一致の姿勢で受容し傾聴する。その場に一緒に「居る」ことが重要で「在る」だけでは足りない。孤独ではないことを全身全霊でメッセージしていく。

希死念慮に至った背景や経緯は人様々である。たとえば、現状を改善したい願望と足掻いても脱せない絶望の連続から、学習性無力感が発動されていることがある。

学習性無力感とは、長期に渡りストレスからの回避が困難な環境に置かれた人が、その状況から逃れようとする努力を行わなくなる現象である。実際のところ少しばかりの努力をすれば、その状況から抜け出す可能性があったとしても、「努力すれば成功するかもしれない」という認知をしなくなってしまうのだ。何をしても功を奏しない、逃れられないという状況下で、情緒は混乱をきたす。この理論は、例えば、拉致監禁や長期の家庭内虐待の被害者、学校でのいじめ、会社でのモラハラ、いわゆる過酷なブラック企業雇用者が自ら進んで退職しないなどの、行動心理の根拠とされている。(Wikipedia

学習性無力感の改善として、認知行動療法が挙げられる。行動しても無駄であるという信念に対し、行動することで何かしらの変化が生まれること(行動随伴性)を実例の中で示していく。徐々に徐々にでいいのでクラックしていく。自尊心の回復を目標にする。鍵は自己効力感の復活である。

心理士として大事なのは、時間を焦らないこと、技法ばかりに走らないことだと思う。傾聴一辺倒でもよくなくて、見立てと介入のタイミングは常に頭のどこかに置いておく。また前提として、本当は誰も死にたくはない、死にたいの裏には生きたいがあることを忘れないこと。一見変わっていかないクライエントに対して学習性無力感を抱かないこと。変化しないことなどこの世にはない、良くなりたいと願わない人はいない信念を持ち続けよう。姿勢と技術で支援していく。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。

0件のコメント

コメントを残す

アバタープレースホルダー

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です