今からもう20年も前の話なんですが、リクルートで会社員していた時のマーケティング同僚の弁を今でもよく覚えていて。なんかインパクトあったんですよね。

「ユーザーさんが自分の人生におけるそのライフイベントをネット検索した時に、一番最初に出会うサイトがウチで、覗いてみたら必要な情報が揃っていて、ストレスなくスルスルっと予約までしてしまった、という流れができたら勝ち。大概の人は、その後もそのイベント時にはウチを使ってくれる。信用できるし、使い慣れてるし、負がなければ変える必要がないから。最初に出会うことでLTV(ライフタイムバリュー)が最大化する。」

「確かにそうかも」と頷きながら聞いた記憶です。なぜそうなるのか、当時は過去の自分の実体験をベースに納得してましたが、心理屋になった今なら「初頭効果」「確証バイアス」「ホメオスタシス」の理論から説明することができます。

初頭効果

初頭効果とは、冒頭で接した情報がその後の情報に影響を与える心理効果のことです。いわゆる「人は第一印象で決まる」というのは、この初頭効果を表した言葉です。なぜ初頭効果が起こるのかというと、脳がフル活性して情報処理するから、インパクトと共に記憶に残りやすいのだと思います。

情報処理でいうと、アンカリングという心理効果があって、人は冒頭に示された情報を基準(アンカー)にして、後続情報を処理していく傾向があります。冒頭の情報が基準になるということは、後続する情報が多ければ多いほど冒頭情報の出現回数が増えるということで、短期記憶が長期記憶に転送されるためにはリハーサル、つまり何度も何回も繰り返すことが有効なため、結果的に最初に提示された情報が記憶に残ることになります。

確証バイアス

初頭効果が長期にわたって継続するのは、確証バイアスの要因が大きいとされています。確証バイアスとは、自身が持っているイメージを支持する情報ばかりに目がいってしまい、逆に否定的な情報が目に入らなくなる認知心理学のタームです。バイアスを訳すと「偏見」です。

誰しも見解は偏る傾向にあります。一度良いイメージを持つとそれ以降は良い情報ばかりが目に入り、逆に一度悪いイメージを持ってしまうと悪い情報ばかりに気が取られるものです。「あばたもえくぼ」「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の諺は、まさにこの現象を指しています。

偏見の認知でいうと、ハロー効果というのもあって、ある対象を評価するときにその一部の特徴的な印象に引きずられて、全体の評価をしてしまう現象です。「あの人は提出物期限をきっちり守るので、おそらく自宅の部屋もきれいに整理整頓されているんだろうな」という勝手な結び付けとかこじつけですね。

ホメオスタシス

確証バイアスが起こる理由、それは人は変化を嫌う生き物だからです。

人が生命維持活動において重視しているのは、ホメオスタシス(生体恒常性)です。私たちの身体は、外から受ける環境や内部の変化にかかわらず、身体の状態(体温・血糖・免疫)を一定に保つことが最優先されています。生体として備わっている機能なので、これは変えられません。

精神活動においてもホメオスタシスは発動します。現在の生活様式や自分自身などを変えようとした時にも、なるべく変えないようにする心理が働きます。

変化への対応には、もの凄くエネルギーを使います。疲れるのです。それはいつの時代も変わりません。現代の情報社会は変化の連続です。生きていくために、なるべく省エネでいきたいと願うのは、人として正常な本能です。限られたエネルギーの注力先は取捨選択しなければなりません。変えなくてもいいものを変えずにいく行動は、昔より今の方が促進されているかもしれません。

願わくば、オンライン心理カウンセリングを検討している人の、最初に出会うサイトがcocoro no cacariであってほしいですね。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。

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