健康体の人からみれば、うつ病は重症、適応障害は軽症に映るらしい。そんなことはない、あなどってはいけない。

確かに適応障害は、ストレス環境以外の生活場面では、いつもと変わらない元気が見受けられることが多々ある。しかし、ストレス環境に近づいたり想像したりすると、それは山の天気ほどに鎮火されてしまい、気分低下、意欲消失、行動異常などが現れる。最初は本人すらこの落差を理解できないし、事情を知らない周囲は「甘えじゃないか」「演技なんじゃないか」と疑惑するのも頷ける。

適応障害の経験者は多いと思う。病院へ行かず診断を受けなかったとしても、多くの人がストレスによる明らかな心身異変や生活への侵略を経験しているだろう。

かくいう私も24歳時に最初の職場で経験済みだ。私の症状は「早朝覚醒してその後寝れなくなる」「金曜の夜だけ開放感があり、土曜の午後には月曜からの仕事がちらついて気分低下し始める」「通勤電車のホームや会社のドア前で、足が動かなくなる」「思考鈍麻が起こり、物品確認などの単純作業でさえ正確にできない」「なのに、週末の草サッカーでは大活躍するし、友人との遊びでは楽しめる」であった。今思えば、これは適応障害の症状であろう。病院には行かなかった。相談もしなかった。耐えるだけ耐えて、耐えきれなくなって退社した。自分が病気レベルにあることを、当時はわからなかった。

適応障害はそれ自体もちゃんとした精神疾患であるし、苦しいし、より脳の病気であるうつ病への移行も懸念されるため、決して軽くみてはいけない。

物理的にも精神的にもストレスから離れる等の環境調整ができると、症状はかなり改善される。普段から周囲へ相談したり、周りから声をかけられる関係性を築くことで、軽症で済ませる確率が上がる。みんなが適応障害を知り、初期症状のサインを無視しないことが重要だ。進行すれば数ヶ月の休職を余儀なくされ、本人には通院等の経済的負担も発生するし、周囲はリカバー分の仕事量が皺寄せてくるわけで、双方にとって良いことはない。

一次予防で未然に防ぐ、もしくは軽度で対策する。これを職場全体で徹底したい。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。

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