心理臨床において個人的に苦手な領域が3つある。未成年の臨床、境界性パーソナリティの対応、そしてインナーチャイルド(以下、インチャイ)である。インチャイとは、自分の中にある「内なる子ども」のことである。

インチャイ、アダルトチルドレン(以下、AC)、愛着障害の定義や関係性はこちらのコラムにまとめてあるのでどうぞ。

https://note.com/embed/notes/n9f368de81fcb

インチャイの本質は衝動である。ACのように、子ども時代に子どもであることが許されず、大人になる要素の一部が満ちぬまま大人になると、無意識に「内なる子ども」が生活の表面に出てしまうことがある。その影響で、気分の低下が招かれたり、思考の負のループが開始されたりする。改めて大人らしさを習得するために、あえて治療的退行を促す、子ども返りを起こさせ、内なる子どもが傷ついていることを知り癒す作業、これがインチャイワークである。

キャリアコーチング関連の仕事や、昨年開業したカウンセリングルームで、インチャイを扱う機会が増えたことにより、腰を据えて書籍や文献を貪り、理解を深め、総合的な「インナーチャイルド癒しのワーク」を作成した。

このワークは4つのステップで構成される。「気づく」「発散する」「願いを聞く」「選び直す」である。

気づく

まずはACチェックリストで自身のAD度を測定してみる。どこに偏りがあるか、共依存の関係性になってはいないかなど、結果を一緒に見ながらワークのゴールを設定する。次に、家族に何が起こっていたか、どのような機能不全があったかを明らかにしていく。

発散する

あなたに何が起こっていたのか。言語化しながら、自分は傷ついたのだという事実を認めることから始める。あなたのこころを傷つけた家族へ、出さない手紙を書いてみる。自分の古い傷に労いの言葉をかけてやる。当時の想いや気分は過去のものであり、現在ではないことを区切る。「さようなら」「今まで留まってくれてありがとう」「今の自分に戻るね」と、声に出してセッションを締める。

願いを聞く

本当はこうしてほしかった、こう言ってほしかったという、心の底で願っていたことを明らかにし、それらをイメージの中で、まるで実際にあったかのような再構築を試みる。自分へのいたわりの手紙を書く。インチャイ宛てでも、今の自分宛てでも結構。目的は、その出来事は自分のせいではなかったことを認め、こころの傷を持つ自分を責めてきた自分を許し、自分を受け入れるところにある。

選び直す

ここまでのワークで築いた土台の上に、新しい自分を建設する。自分のためのアファメーション(肯定的な言葉による自己暗示)で、理想の自分を引き寄せていく。アンガーマネジメント、アサーション、その他のコミュケーション技法がそれを手助けしてくれるだろう。

継続することで効果が表れる

ワークを書き終えれば即時にAD脱却かといえばそうではない。自分の傷を癒やし、こころの傷を与えた事象を手放し、現在の自分の人間関係の持ち方を学習し、新しい景色が見え始めたに過ぎない。継続していくことである。目標や理想を持ちつつ、あまり遠くを見続けないこと。中期、短期の目標にブレイクダウンしておくこと。今この瞬間を、精一杯に生きようとすることが必要である。日々の中で振り返りをして、成果と反省を確認し、できるようになったことは継続、そうでなかったことは別の方法でトライすることを続けていきたい。

ひとりの限界と、心理士の役割

インチャイワークはセルフでも行えるが、専門家と二人三脚で行った方が、安全かつ効果を得やすいといえる。インチャイに苦しむ人は、これ系のワークを自分一人で散々やってきたのではないだろうか。それでもなお緩和していないのであれば、実施方法に関して何かしら手を加える必要がある。ワークの中身は大同小異なため、ひとりではなく、二人でやってみるのはどうか。専門家がいれば、自分のこころが暴走する前に踏み止まれる確率が格段に上がり、傷の更なる深化の予防にもなる。第三者による客観的な視点を交えながら、自分一人では気づけなかった深層心理や、心理的防衛の突破法に辿り着けるのではないか。

何かの本に書かれていた一節が忘れられない。

決着をつけられるのは、苦しんだ当事者だけだ。

ことさらACにはこれが当てはまる。私は心理屋として、外側に君臨する支援者として、その人なりの新たな自立形成を補助していく。私にはそれしかできないが、これが私の仕事である。

参考:特定非営利活動法人 日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。

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